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連濁(れんだく)
連濁とは
「連濁」とは、ふたつ(またはそれ以上)の言葉がつながって複合語となるとき、あとにくる語の語頭が清音から濁音に変化することをいいます。たとえば、「夕暮れ」の「とき(時)」が「夕暮れどき」、「赤」い「かわら(瓦)」が「あかがわら」となる現象です。
では、言語学的に言い換えまてみしょうね。
あっ、その前にちょっと、前回の記事「有声音と無声音」の復習をしましょう。
清音が濁音になるということは、その子音には、対応する濁音がないといけませんね。
濁音は「有声音」です。ということは、…そうです、あとにくる語の語頭の子音は「無声音」にとるはずですね。
そこで定義し直してみると、こうなります。
「複合語で、あとにくる語の語頭が無声音である場合、これが有声音に変化する現象」。
では、更に具体的に連濁について探っていきましょう。
連濁が起こる条件
「連濁」という現象はおもに倭語(=和語:元来の日本語。漢字がない、または漢字で訓読みする語)同士の組み合わせで生じます。倭語は元来濁音が語頭に立たないという特徴があったため、濁音化することにより「複合語であること(と、そのつなぎ目)」を示していると考えられているようです。
- 【例】
-
- 草+花→草花(クサバナ)
- 乙女+心→乙女心(オトメゴコロ)
連濁が起こらない場合と、例外
先ほど、連濁は「おもに倭語の組み合わせで生じる」現象だと書きましたので、こんどは連濁を起こさない、具体的な例を挙げてみます。
■ 倭語以外の言葉、つまり漢語(漢字で音読みする語)や外来語では原則、連濁は起こらない。
- 【例1:漢語の場合】
-
- 電話線(「デンワ-ゼン」にはならない)
- 通常国会(「ツウジョウ-ゴッカイ」にはならない)
ただし、輸入された時期が古く語彙として一般化したものについては連濁が生じる。
【例】文庫本(ブンコ-ボン)、株式会社(カブシキ-ガイシャ)など - 【例2:外来語の場合】
-
- ビデオテープ(「ビデオ-デープ」にはならない)
- チキンカレー(「チキンガレー」にはならない)
■ 倭語でも、先の語とあとの語が並列関係の場合は連濁しない。
- 【意味が並列する倭語の例】
-
読み書き(読む & 書く)、好き嫌い(好き or 嫌い)、飲み食い(飲む & 食う)
※ ただし、先の語があとの語を修飾する場合には連濁を起こす。
【例】宛名書き(宛名を書く)、食わず嫌い(食わずに嫌う)、やけ食い(ヤケになって食う)
まとめ
実はこの連濁が起こるシステム、まだ厳密には解明されていないそうです。
ここに書いたのは、一応の規則とされているものですが、慣用などで例外が本当に多くて、きっちりと定義し切れていないとのこと。
さあ、この法則をきちんと解明できたら表彰ものですよ〜。
有声音と無声音
清音と濁音、ではなくて…
前回同様、ひらがなの五十音表を思い浮かべてください。
五十音表の中には、濁点「゛」がつけられる行と、つけられない行がありますね。通常は、濁点がつかないものを「清音」、つくものを「濁音」といって区別しています。
さて今回は、「清音と濁音」の区別を、少し違うふうに分類してみます。
それがこの「有声音と無声音」分け方です。
「有声? 無声? 会話音なんだから、声は出て当たり前のものでしょう?」と、そう思ってしまいたいものですが…
じつは、子音だけでみてみると、発声時に声帯の振動を伴うものとそうでないものがあります。声帯の振動を伴うのが有声音、振動しないものが無声音です。
ん、この言い方だと少し小難しいですね。
では実際に、有声音と無声音を分けて解説してみますね。
有声音
それではまず、母音まで言わずに子音だけ発声してみてください。
なんて突然言うと、どうしたらいいか困ってしまいますね。
でも実は、日本語の中にも、子音を単独で発音しているものがあるのですよ。
それは「ン」です。アルファベットでは「n」ですね。ほら、子音のみ! 母音がない。
この「n」に母音をつけたものが「ナ行」です。母音をつける寸前で発声をやめたら、ほら、「ン」!
さて、この「ン」の音を発声するときに、喉に手を当ててみてください。
振動が手に伝わってくると思います。声帯が振動しているのです。こういうふうに、声帯を振動させて発声されるのが有声音です。
ナ行[n]の他には、清音ではマ行[m]、ラ行[r]、ヤ行[y]※、ワ行[w]※があります。
※ ヤ行とハ行は厳密には「半母音(母音に近い子音)」に分類されます
そしてなんと、濁音の子音は、すべて有声音です。
ガ行[g]、ザ行[z]、ダ行[d]、バ行[b]、みな声帯の振動を伴います。
無声音
こちらは、発声時に声帯の振動を伴わない音です。
カ行[k]、サ行[s]、タ行[t]、ハ行[h]、パ行[p] がこれに当たります。
実例を挙げてみましょう。
まずは例1。
普段、「〜します。」「〜です。」というときの「す」、そして「〜でした。」というときの「し」、母音までちゃんと発音していますか? 母音が抜けてしまって、息がスッと抜けて子音だけになってしまっていると思います。これは「消え母音」といわれる現象なのですが、ということはつまり、このときの「し」「す」は、子音が単独で発音されています。母音が抜けると、声帯は振動せず、ただ調音点を息が抜けているだけということに気がつきますね。
もうひとつ例を挙げます。
あまり品の良い例ではないですが…、オジサンが痰を吐く様子を「カーッ! ペッ!!」と表現しますね。
ちょっと恥ずかしいですが、言ってみてください。「カーッ!(子音[k])」も、「ペッ!(子音[p])」も、音声にはならず、息が強く喉から吹き出るだけですね。声帯は振動していません。
こうして、子音が声帯の振動を伴わないものが「無声音」です。
さて、ここで有声音と無声音の間に、おもしろい対応関係がひとつ見えてきませんか?
清音と濁音の正体
清音のカ行[k]は、無声音です。このカ行にに対応する濁音、ガ行[g]は、有声音ですね。
同様に、サ行[s]とザ行[z]、タ行[t]とダ行[d]、そしてハ行[h](古くはパ行[p])に対するバ行[b]も同様に、清音と濁音、無声音と有声音の関係が成り立ちます。
つまり、五十音表のうち、子音が無声音のものに、「濁音」という概念が存在するのです。
調音点が同じ位置にあって、無声音のものが「清音」、有声音のものが「濁音」と呼ばれているわけです。
五十音表は千数百年も前に作られたそうですが、これを作った人(たち)というのはあの時代すでに、調音点と有声・無声の区別をしっかり認識していたのですね。凄い!
ところで、五十音表の中で有声音のナ行[n]、マ行[m]、ラ行[r]には対応する無声音はありません。
無声音がないから、有声音がそのまま五十音表に現れた、ということなのでしょうね。
あれ…。コンパクトにしたいんだけれど、何故かやっぱり記事が長くなる…。
読みづらいかもしれません。すみません。
母音と子音
今回から文章を「ですます形」で書きます。
あまり偉そうな文体で書けるほどの知識量でもないので…という理由で。口調を柔らかめにしようと思います。
そして、方言よりもなによりも、言語学の基礎の部分からしっかり書いていこうと思います。まずはこれありき、これがないと説明も何もうまくいきません。
そう、つまずいたんです。だから、基本からなるべくしっかり、書いていきます。
では、ずぅ〜(here we go !)
母音と子音を分けてみる
まず、ひらがなの五十音表を思い浮かべてください。
この五十音表を、アルファベットで表記してみてください。どうなりましたか?
ア行は母音だけの列ですので「a」「i」「u」「e」「o」、と母音を表すアルファベット一文字になりました。
では、他の行はどうでしょうか。
「ka」「ki」「ku」「ke」「ko」、「na」「ni」「nu」「ne」「no」など、「子音+母音」の組み合わせになったはずです。
挙げた例でいうと、カ行は子音が「k」、それに母音の「a」「i」「u」「e」「o」がそれぞれくっついて「か」「き」「く」「け」「こ」の音ができあがります。ナ行「n」も同様に説明ができます。
子音が変化した音
先にカ行とナ行を例に挙げました。なぜ順番よくカ行、サ行、タ行…と例示しなかったかというと、サ行やタ行に「例外」があるからです。
では、どのような例外か、それを見てみましょう。
1. サ行 − [s]、[sh]
アルファベットで書いてみます。
そうすると、「sa」「shi」「su」「se」「so」になりますね。
ん?
そうそう、「し[shi]」がおかしいですね。
定型通りだと[si]となり、発音は今の表記だと「スィ」というふうになるはずです。
口の中の動きに注意して、実際に声を出して「サ・シ・ス・セ・ソ」と言ってみてください。イ段の「シ」時だけ、舌の位置が違っているのがわかるでしょうか。イ段の時だけは上あごの真ん中辺りに細い隙間を作って息を通していますね。母音がそれ以外のときは、舌が少し前寄りになって、上の歯の付け根(歯茎)に息が当たっているはずです。
では、こんどは [si](スィ)と発音してみてください。これはサ行母音がイ段以外の時と同じ調音点になりますよね。
サ行には子音が2種類あります。
2. タ行 − [t]、[ch]、[ts]
タ行はどうでしょう。
「ta」「chi」「tsu」「te」「to」です。
そう、「ち[chi]」と「つ[tsu]」の子音が違っていますね。[ti](ティ)、[tu](トゥ)でない。
これも実際に発音してみてください。そして舌の位置、息の通りを感じ取ってみてください。
違いはわかりましたか?
母音が[a]、[e]、[o]の時と、[i]、[u]のとき、そしてイ段[i]とウ段[u]もそれぞれ違ってるはずです。
[ta](タ)、[te](テ)、[to](ト)のときは、舌先が歯茎(または上の歯の裏)をはじいています。[tsu](ツ)は、歯茎より少し奥寄り、硬口蓋に舌先を近づけて細い隙間を作り、息を通しています。[ts]と綴るだけあって、サ行[s]の音にも似た音のつくりかたです。
[chi](ち)は、子音に「t」の字が含まれていないことからもわかるように、更に発音が変化しています。上あご全体に一度舌がくっついて、離れた瞬間に息が通る発音ですね。
以上、タ行の子音はなんと3種類です。わぉ!
3-1. ハ行 − [h]、[?]、[Φ]
ハ行、これは、もう、凄いよ〜。さあ、みてみましょう。
ただし、これは普通にアルファベット(ヘボン式ローマ字)で表記しても、「ha」「hi」「fu」「he」「ho」と、一見何の変哲もない(!)上に、一部実際の発音にそぐわない表記があるので、IPA(国際音声字母)で書いてみます。IPAとは英語の辞書などに載っている、あの、いわゆる「発音記号」のことです。
「ha」「çi」「Φu」「he」「ho」。
どうでしょう。見慣れない発音記号がふたつ見えますね。そう、[çi](ヒ)と[Φu](フ)です。さて、私たちはそんな変わった音を発声していたのでしょうか?
とにかく、いちどハ行を実際に発音してみましょう。
「ヒ」と「フ」の発音は、どうなりましたか。
「ハ」「ヘ」「ホ」との違いはわかりましたか。
「ハ」「ヘ」「ホ」の子音は「h」。のどの奥(声門)で調音して息を吐き出す音です。
試しに、この調音点のままで母音[i]、[u]をくっつけて言ってみてください。カ行とハ行の間のような、妙な音が出てきませんか?
さて、「ヒ」の子音の発音記号は、アルファベットのcの字の下にひげの付いた[ç]です。実際に発音してみると、hより少し前寄り、上あごの奥(硬口蓋)に息を当てることで調音されていますね。
では、こんどは[Φu](フ)です。口を少しすぼめるようにして、口唇で調音されていますね。
「Φ」はギリシャ語アルファベットの「ファイ」、高校数学の授業では確か、「空集合」を表す記号として習ったと記憶しています(そうですよね?)。
ハ行の他の子音がのどに近い点で調音されているのに、この「フ」だけは口唇音です。不思議ですね。
3-1. ハ行の歴史的変遷
宮古方言では、共通語のハ行は原則、[p]の子音いわゆる「パ行」が対応します。[p]は、口唇を閉じた状態から勢いよく息を吹き出す音です。これは宮古・八重山方言全体に見られる現象です。また、宮古・八重山方言の一部と、残りの琉球方言圏のあちらこちらでは、[f]音が「ハ行」に対応します。これは口の両端を少し横に引っ張った状態で、閉じた口唇から息を吹き出す発音です。
あれあれ、[p]や[f]の音は、先ほどの[Φ]の音に近い、口唇を使う発音ですね。
では、清音と濁音の対応関係について、ちょっと考えてみましょう。
他の行、つまり「カ行とガ行」や「サ行とザ行」、「タ行とダ行」では、清音の時と濁音の時、調音点が一致しています(試しに発音してみてください)。
清音と濁音の違いは、子音が単独で発音されるときに、それが有声音か無声音かの違いです。濁点のある行の子音は無声音、それに濁点をつけると有声音になります。
(有声音と無声音については、後ほど単独で記事を書きます)
ハ行の音であるバ行はどうでしょう。アルファベットで書いてみると、次のようになりますね。
「ba」「bi」「bu」「be」「bo」。
では、これはどういうふうに発音されていますか? いちど口唇を閉じた状態から息を吹き出す音になりますね。
実はこの[b]という子音は、無声子音[p]の有声化した発音です。言い直せば、「バ行[b]」の本当の清音は「パ行[p]」ということになります。古くは日本語でも、ハ行は[p]の子音で発音されていたと考えられています。それが少し軟らかくなって[f]音となり、現代の[h](および[?]、[?])へ変遷したと考えられています。
パ行[p]とファ行[f]は、調音点が近いので、変化しやすかったと考えられます。パ行[p]とハ行[h]はあまり似てはいませんが、ファ行[f]とハ行[h]なら似た音に聞こえますね。日本語ではファ行[f]とハ行[h]の音(古くはパ行[p]とファ行[f]の音)を厳密に区別しなくても、単語の意味に影響がない言葉だったため、変化をしてしまったのでしょう。
■ まとめ
たとえば、サ行においては、元々は子音は一貫して[sa]、[si]、[su]、[se]、[so]と発音されていたと考えられています。
それが時間を経るうちに意味に影響を与えない範囲で発音が楽にできる音へと変わってきた。日本語は、[si](スィ)と[shi](シ)を区別しなくても良い言語ですから、どちらでも良い、つまり流動可能だったわけです。そしてその結果、日本語という言語の中で、サ行のイ段は[si](スィ)という音より[shi](シ)という音の方が発音しやすい、ということになったのでしょう。
タ行のイ段・ウ段についても同様の説明が可能ではないでしょうか。
ハ行についても、経緯は少し複雑になっていますが、先述の通り、「発音を厳密に区別しなくても単語の意味に影響が少なく」、また「発音が楽な方へ変化した」という意味では同じような経緯をたどってきたと考えられます。
以上、思ったより長くなってしまいました。いかがでしたでしょうか。五十音表をアルファベットに置き換えてみると、おとなしく定型通りになってくれない音が結構多いものですね。
これも歴史の長い証拠かしら。
中舌母音(または舌先母音)
2006年10月22日 初出 2007年03月23日 文章全体を見直し、修正(語弊のある表現をなるべく・・・)