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有声音と無声音

清音と濁音、ではなくて…

前回同様、ひらがなの五十音表を思い浮かべてください。
五十音表の中には、濁点「゛」がつけられる行と、つけられない行がありますね。通常は、濁点がつかないものを「清音」、つくものを「濁音」といって区別しています。

さて今回は、「清音と濁音」の区別を、少し違うふうに分類してみます。
それがこの「有声音と無声音」分け方です。

「有声? 無声? 会話音なんだから、声は出て当たり前のものでしょう?」と、そう思ってしまいたいものですが…
じつは、子音だけでみてみると、発声時に声帯の振動を伴うものとそうでないものがあります。声帯の振動を伴うのが有声音、振動しないものが無声音です。
ん、この言い方だと少し小難しいですね。

では実際に、有声音と無声音を分けて解説してみますね。

有声音

それではまず、母音まで言わずに子音だけ発声してみてください。
なんて突然言うと、どうしたらいいか困ってしまいますね。
でも実は、日本語の中にも、子音を単独で発音しているものがあるのですよ。

それは「ン」です。アルファベットでは「n」ですね。ほら、子音のみ! 母音がない。
この「n」に母音をつけたものが「ナ行」です。母音をつける寸前で発声をやめたら、ほら、「ン」!

さて、この「ン」の音を発声するときに、喉に手を当ててみてください。
振動が手に伝わってくると思います。声帯が振動しているのです。こういうふうに、声帯を振動させて発声されるのが有声音です。
ナ行[n]の他には、清音ではマ行[m]、ラ行[r]、ヤ行[y]、ワ行[w]があります。

※ ヤ行とハ行は厳密には「半母音(母音に近い子音)」に分類されます

そしてなんと、濁音の子音は、すべて有声音です。
ガ行[g]、ザ行[z]、ダ行[d]、バ行[b]、みな声帯の振動を伴います。

無声音

こちらは、発声時に声帯の振動を伴わない音です。
カ行[k]、サ行[s]、タ行[t]、ハ行[h]、パ行[p] がこれに当たります。

実例を挙げてみましょう。

まずは例1。
普段、「〜します。」「〜です。」というときの「す」、そして「〜でした。」というときの「し」、母音までちゃんと発音していますか? 母音が抜けてしまって、息がスッと抜けて子音だけになってしまっていると思います。これは「消え母音」といわれる現象なのですが、ということはつまり、このときの「し」「す」は、子音が単独で発音されています。母音が抜けると、声帯は振動せず、ただ調音点を息が抜けているだけということに気がつきますね。

もうひとつ例を挙げます。
あまり品の良い例ではないですが…、オジサンが痰を吐く様子を「カーッ! ペッ!!」と表現しますね。
ちょっと恥ずかしいですが、言ってみてください。「カーッ!(子音[k])」も、「ペッ!(子音[p])」も、音声にはならず、息が強く喉から吹き出るだけですね。声帯は振動していません。

こうして、子音が声帯の振動を伴わないものが「無声音」です。
さて、ここで有声音と無声音の間に、おもしろい対応関係がひとつ見えてきませんか?

清音と濁音の正体

清音のカ行[k]は、無声音です。このカ行にに対応する濁音、ガ行[g]は、有声音ですね。

同様に、サ行[s]とザ行[z]、タ行[t]とダ行[d]、そしてハ行[h](古くはパ行[p])に対するバ行[b]も同様に、清音と濁音、無声音と有声音の関係が成り立ちます。
つまり、五十音表のうち、子音が無声音のものに、「濁音」という概念が存在するのです。
調音点が同じ位置にあって、無声音のものが「清音」、有声音のものが「濁音」と呼ばれているわけです。
五十音表は千数百年も前に作られたそうですが、これを作った人(たち)というのはあの時代すでに、調音点と有声・無声の区別をしっかり認識していたのですね。凄い!

ところで、五十音表の中で有声音のナ行[n]、マ行[m]、ラ行[r]には対応する無声音はありません。
無声音がないから、有声音がそのまま五十音表に現れた、ということなのでしょうね。


あれ…。コンパクトにしたいんだけれど、何故かやっぱり記事が長くなる…。
読みづらいかもしれません。すみません。


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Posted by Motoca at 2007年08月28日 01:20
コメント(3) | | カテゴリ:言語学の基礎知識

この記事へのコメント

 大変うまい文章を読ませていただきました。
とても勉強になりました。
 私は中国人の留学生で、今独学で日本語教育学について勉強中です。この間「「清音・濁音」という区別の仕方と「無声音・有声音」という区別の仕方には、どのような共通点と相違点があるか、歴史的な観点も交えながら、具体例をあげて説明しなさい。」という問題を見ました。日本語の歴史に対してはまだ知識が浅いため、いくら探してもあまりよく分かりません。
 もしよかったら、Motocaさんに教えていただきたいですが。ありがとうございます。
 ご返事を、心よりお待ちしております。
Posted by 于 at 2010年12月26日 01:32
大変よくわかる説明で感銘を受けました!

ありがとうございました。

頭では分かっていても、中々実践と結びつかない部分があったのですが、非常にわかりやすかったです。

特に、おじ様の痰!笑

あ!!ホントだ!やっていて、思わず言葉が出てしましました。笑

現在私はカンボジアで日本語教師をしております。また、今後もブログを拝読させてください。
Posted by かよ at 2014年03月30日 18:31
ア行の無声音がハ行になります
Posted by あ行 at 2016年02月13日 16:51

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